ニュースレター 2023年4月号

ニュースレター (1)認知症治療薬シリーズ


認知症の治療新薬について:
2023年1月に米国FDAがアルツハイマー病(以下ADと略す)新薬を迅速承認したニュースが世界に広がりました。また同じ時期に米国の医学雑誌NEJMでもその研究結果が発表されました。やっと良い薬が出来、希望が膨らみかけていた矢先、2023年3月に別の医学雑誌Neurologyで新薬である抗アミロイド抗体薬で脳の萎縮が促進する可能性があるという批判的な論文も発表されました。
そこで今回、いったい抗アミロイド抗体薬とは、どのような薬で、どれくらい効果があり、どんな副作用があるかなど、現在(2023年4月現在)知られていることをすこしお伝えします。
最近の20年間で、ADの原因物質がアミロイドであり、この物質の形成過程はアミロ
イド・カスケード仮説(最初はバラバラの単量体アミロイドベーター、その後それ少
数連なり、その後プロトフィブリンとなり、さらに大きく連なり、アミロイド線維となる過程)といわれています。以前から認知症の脳内には、老人班が神経細胞外に存在し、この物質がアミロイドであることがわかっており、その後、神経細胞内にタウというアミロイドに似た物質がみられ、認知症とアミロイドの関係の研究が強力に進められました。これらはアミロイドタンパクと言われ、ADはこのタンパク形成が増大したか、あるいは除去する過程が低下した状態ではないかと想像されていました。また、ADの診断も、症状や脳のアミロイドPETCT画像のみでなく、脳脊髄液内や、血液内の各種物質を測定し、診断する試みが発展しました。その結果、このアミロイドタンパクはまず、プロフィブリンという、水溶性の分子量が小さい物質が次第に質量が大きくなり、老人班という不溶性で大きな質量になり、タウ・タンパクになることが判明してきました。その結果、認知症の症状が出る15年から20年も前に、すでにアミロイドタンパクが徐々に形成され、増加していくこともわかり、予防、早期の発見、早期治療の可能性、そして、いったん形成されたアミロイドを除去する方向へと研究が飛躍的に進みました。
2022年、6月エーザイとバイオジェンが米国で開発したアヂュカヌマブが第一号で
した。疾患修飾薬として神経細胞の死を遅くすることが期待されていました。臨床試験で効果が見られましたが、効果があまりなく、逆に副作用が危険ということで、日本では認証が見送られました。この薬は不溶性の老人班を除去するものです。
そして今年、さらに第二号として、レカネマブが米国で承認されました。抗アミロイド
ベーター抗体薬ともいわれています。第一号も第二号もともにアミロイドタンパクに対
する抗体で、特異的に結合(鍵と鍵穴の関係)し、その後アミロイドタンパクは破壊されてしまいます。すなわち減少してゆきます。その結果、レカネマブでは症状の悪化抑制に27%ほどの効果があるといわれています。また介護負担度にも軽減効果がありました。副作用としてかなり高率にアレルギー反応が出現し、発熱、呼吸困難などがあります。
最も危険な副作用は、ARIA(Amyloid-related imaging abnormalities)という脳浮腫(ARIA-E)12.6%と脳出血(ARIA-H)17.3%の出現率です。かなりの高頻度です。これはアミロイドは脳内血管にも沈着しており、これらも除去されるため生じると考えられています。また前述したように、脳の萎縮を指摘されており、現在精査中です。
次に薬の費用が大きな問題点です。アヂュカヌマブは年間数百万円、レカネマブも同様に数百万円と超高価です。保険で半額になることが期待されていますが、それでもまだ高価です。
現在のところ、これらは点滴薬であり、錠剤はまだ出来ていません。自己注射ができる皮下注射が期待されています。参考資料として、2023年1月25日、東大教授、岩坪威先生の日本記者クラブでの講演をお勧めします。


(文責:吉田清和, MD, PhD)

米国中西部の3大学医学部で米国医師のレジデント教育をほぼ20年間行う。

日本では関西医大リハビリテーション科教授、

帝京大学医学部整形外科・リハビリテーション科助教授。整形外科専門医(日)、

リハビリテーション専門医(日、米)  

六郎オーグ顧問医師